iRICにはEvaTRiPとDHABSIMの2つの生息場計算ソルバーが含まれています。これらの使い方や違いを説明します。前提条件として、iRICの2次元流況計算ソルバーに慣れていることが必要です。もしまだご存じないのでしたら、このリンク先の基礎編・応用編を勉強してください。
iRICはフリーの河川数値シミュレーションプラットフォームです。
基礎編
流況計算ソルバーと生息場計算ソルバーの違い
2次元流況計算ソルバーの使用法に慣れていれば、生息場計算ソルバーの使用法はかなり特殊だとわかるはずです。生息場計算ソルバーは、下図のように他の2次元流況計算ソルバーにより計算された格子と流速・水深などの計算結果を読み込んで、生息場計算を実行します。
流況計算が生息場計算と結びついていることは本質的に重要です。流れの変化は事業の設計図があれば計算できますから、実際に事業が実施される前に、事業によって生息場環境がどう変化するかが計算できるわけです。予測できれば、対策も立てられますよね!
EvaTRiPとDHABSIMの違い
EvaTRiPは、世界的に広く受け入れられているHEPやPHABSIMと同じ物理生息場モデルです。HSC(生息場適性基準)を用いて個々の対象魚種に対する生息場の価値を計算します。一方、DHABSIMは環境が多様であれば生息魚種も多様になるとの考えに基づくEED(生態環境多様性指数)を評価指標としています。EEDは、SKラボの現地調査でPHABSIMが遊泳魚分布をうまく説明できなかったことから、瀬と淵が魚の行動範囲の中に存在していることの重要性を説明できるものとして開発した比較的新しい指標です。
比較項目 | EvaTRiP | DHABSIM |
---|---|---|
評価指標 | 個々の魚種のWUA | EED(魚種数の多寡と相関) |
計算に必要な情報 | 水深、流速、河道指標の2次元分布 個々の魚種のHSC | 水深、流速、河床材料の粒径、植生の2次元分布 |
長所 | 個々の種について論じることができる HSCを定めるために調査した環境の範囲内であれば違う河川の比較もできる可能性がある | HSCが不要。流況計算できれば河床材料と植生の情報を加えるだけで生息場計算可能 |
短所 | HSCを準備するのが難しい魚種がある。 遊泳魚に対する評価精度が低め。 | EEDと魚種数の多寡の相関が全ての地域で適用できるか証明されていない。 違う河川の比較には向かない。 |
SKラボが考える適した対象 | 行動範囲の小さな種(産卵場、稚魚、水生昆虫など) | 河川改修など、同じ場所の流況を変化させる工事の魚類への影響評価 遊泳魚全般にざっくりと生息場の好悪を計算したい時 |
ちなみに、表中でEvaTRiPは河川間の比較に使えるけどDHABSIMは使えない、というような書き方をしています。技術的にはそう言えないこともないと思います。しかし元々、PHABSIMより上位の方法論であるIFIM (Instream Flow Incremental Methodology) の考え方自体が、生物の評価は絶対値で考えるのではなく、環境を少しづつ変えた(Incremental)時に評価値の変化が良い方向に向かうのか悪い方向に向かうのかで考えるべきだ、というものです。つまり、もともと物理生息場評価モデルというものは、他の場所と比較するものではなく、注目する場所の変化を見るためのもの、ということですね。
EvaTRiP編
EvaTRiPの元となった物理生息場モデルの考え方は以下で説明しています。
EvaTRiPの使い方を以下で紹介しています。
自分で試してみたいよね?iRICのダウンロードページのEvaTRiPの項目を展開すると事例データがあるよ。iRIC/River2Dのサンプルデータを使ってみるのも面白いね。
iRICは2023年6月に正式にVer.4になったけど、EvaTRiPはVer.3でしか動かないの。Ver.4にはEvaTRiP proがあるけど、2023年6月時点では一部の変数(河道係数)が使えないのよ。幸い、iRIC Ver.3のEvaTRiPはiRIC Ver.4の流況計算ソルバーの計算結果を読めるので、EvaTRiPはiRIC Ver.3で使ってね。iRIC Ver.3とVer.4は同時にインストールしても大丈夫よ!
DHABSIM編
DHABSIMの評価指標EEDの考え方を以下で説明しています。
DHABSIMの使い方を以下で紹介しています。
DHABSIMの計算の流れを以下のビデオで紹介しています。
自分で試してみたいわよね?iRICのダウンロードページのDHABSIMの項目を展開するとサンプルデータがあるわ。iRIC/River2Dのサンプルデータを使ってみるのも面白いわね。
活用編
河川の生息場計算は流況計算とは切り離せませんが、流況計算より狭い範囲で生息場評価をしたい場合も多いです。以下ではEvaTRiPを用いてそのような場面でどうするか説明していますが、CSIをEEDと読み替えればDHABSIMにも適用できます。
日々新しい活用情報が増えていきます。右上(PCのブラウザ場合)の複合検索も活用して、新しい情報を探してみてね。 have fun!
コメント