iRIC/DHABSIMで工事が魚の生息場に与える影響を調べる

アイキャッチ, iric-dhabsim HabitatModel

DHABSIMは任意の2次元流況計算ソルバーの計算結果を読み込んで、生態環境多様性指数EEDを計算するソルバーです。HSCなどの生物情報を使わずに魚にとって良いか悪いか簡単に判定できます。

iRICはフリーの河川数値シミュレーションプラットフォームです。

置石を撤去したときに魚に与える影響を計算する

下図の写真の区間長は約200mで、右から左に水が流れています。4か所に複数の置石がおかれていますが、赤丸の2か所の置石を撤去することを考えます。置石ありと置石撤去後の流況をRiver2Dで計算した結果が下図です。置石を撤去したことで、中央部の流速がいくぶん高まり、左側の置石を撤去した部分の流速はかなり上昇しています。

赤丸内の置石撤去前後のRiver2Dによる流況計算結果
赤丸内の置石撤去前後のRiver2Dによる流況計算結果
そうたくん
そうたくん

ちなみに、River2Dでの置石の再現方法はこのリンクで説明しているよ!

DHABSIMを起動し、River2Dの計算結果をインポートする

iRICを起動し、新規プロジェクトでソルバーの選択画面を出し、DHABSIMを選びましょう。

DHABSIMソルバーを選ぶ
DHABSIMソルバーを選ぶ

DHABSIMが開いたら、オブジェクトブラウザで「格子」を右ボタンクリックし、「インポート」を選びます。計算が終わっているRiver2Dのプロジェクトフォルダを開き、Case1.cgnというファイルを開きます。下図右下のようにエラーが出ますが、気にせず「はい」をクリックしましょう。

River2Dの計算結果をDHABSIMにインポートする
River2Dの計算結果をDHABSIMにインポートする

すると、River2Dの計算格子が表示されます。表示されていませんが、流速や水深も読み込まれています。DHABSIMはRiver2Dに限らず、iRICに同梱される他の2次元流況計算ソルバーの計算結果を読み込むことができるはずです。

底質コードを設定する

次に、底質の状態を示す底質コードを設定します。底質コードは1:2mmまでの砂以下の細粒、2:2~75mmまでの砂礫~礫、3:75mm以上の石です。あるいは底質の優占粒径をmm単位で与えることもできます。入力した数値がコードか粒径かは「計算条件」で設定します。この区間は均一な河床なので全体に底質コード2を与えていますが、複数のポリゴンを使って河床材料の分布を表現できます。

底質コードの設定
底質コードの設定
かなえさん
かなえさん

複数のポリゴンが重なった部分はオブジェクトブラウザ―で上にあるポリゴンの設定が使用されるのよ。底質コードが設定されていない部分は計算から除外されるから注意してね!点群データやGISのポリゴンデータをインポートすることもできるわ。DHABSIMのマニュアルを見てね!

植生コードを設定する

次に植生コードを設定します。これは、魚の隠れ場になりそうな水際の陸生植物の葉陰やヨシ・ガマなどの抽水植物、水草などの沈水植物の繁茂域を示すエリアを「植生あり」として設定するものです。ここでは全体を「植生なし」に設定していますが、「植生なし」を設定する必要は実はありません。「植生あり」の部分だけ設定すれば十分です。

植生コードの設定。「植生なし」は設定する必要なかった
植生コードの設定。「植生なし」は設定する必要なかった

計算条件の設定

次に、メニューから計算条件を設定します。「基本設定」のファイル名は、格子としてインポートしたRiver2DのCase1.cgnを再度設定します。これは重複した無駄な作業なのですが、現状のiRICの内部構造上避けられませんのでおまじないと思って設定してください。次の「行動圏」はデフォルトの200(m2)のままにしてください。研究用です。その下の「格子セルサイズ」は、自動設定だと行動圏の直径を10で割った値(≒1.6m)になります。この値については後に解説しますが、本稿では自動設定と手動設定 0.1mの2つのケースで計算しています。

「流速カテゴリ」、「水深カテゴリ」は触らないでください。研究用です。「底質カテゴリ」のみ、底質コードが1,2,3のカテゴリ値か粒径mmかを指定します。

計算条件の設定
計算条件の設定

計算実行

これだけ設定すれば、計算実行できます。格子セルサイズが自動設定だとあっという間に計算が終わると思いますが、手動設定で0.1mに設定すると、格子数が単純に(1.6m/0.1m)^2 = 256倍になりますので、かなり時間がかかります。

ソルバーコンソールのNumber of effective nodeは、水が存在する格子点の数、Effective areaは計算領域の水面積、Average eco-environmental diversityは水が存在する範囲の生態環境多様性指数(EED)の平均値です。

計算実行
計算実行

格子セルサイズの意味

可視化ウインドウのオブジェクトブラウザを見ると、①のDHABSIM 1.1.1 Gridと②のDHABSIM 1.1.1の2つのフォルダが同レベルに存在しており、それぞれに「格子形状」や「スカラー」等の項目があることがわかります。①は、流況計算ソルバー(ここではRiver2D)から読み込んだ格子、②はDHABSIMの格子に関わる項目なのです。下図中央と右は、水深を彩色で、流速をベクトルで表示していますが、これは①に属するデータです。黒色の三角要素も①のRiver2Dの格子です。一方、中央図には粗い白色格子、右図には細かい白色格子が描かれていますが、これらは②のDHABSIMの格子形状です。デフォルトでは②の格子は外枠しか表示されていないので、下図のような格子模様は見えませんが、②の格子形状を右ボタンクリックし、プロパティで格子線を「外枠のみ」から「すべて」に変更することで見えるようになります。中央図は格子セルサイズが自動設定のもの、右図は格子セルサイズが手動設定0.1mのものです。DHABSIMでは、格子点の流速・水深・底質・植生を元にして魚の行動圏内の環境多様性を計算するので、格子点が均一に分布している必要があります。そのため、流況計算ソルバーとは異なる格子を使用する必要があるのです。

格子セルサイズの違いを可視化ウィンドウに表示
格子セルサイズの違いを可視化ウィンドウに表示

さて、上図では、中央の自動設定DHABSIM格子では置石により生じる環境変化をあまり拾えていないように見えます。一方右の手動設定0.1m格子は、River2Dの最小格子に近い解像度で環境変化を拾っているように見えるので、手動設定の方が適切であるように思われるかもしれません。実際はどうなのか・・では、結果を見てみましょう。

EED計算結果

まず、EEDの計算結果を見ると、横断方向の変化が少なく、縦断方向にバーコードのように変化しています。これは、対象区間の幅が狭く、両岸とも魚の行動圏内に入るためで、川幅が大きい河川では、岸よりのEEDが高く、中央部が低くなるのが普通です。

次に、格子セルサイズ0.1mと1.6mを比べると、もちろん0.1mの方が精細には見えますが、意外に違いが小さいとは思いませんか?区間平均EEDも0.001程度しか違っていません。前図では自動設定の格子セルでも置石区間に少なくとも8点程度は格子点が存在しているので、それなりに環境の違いが反映されているのですね。格子セルサイズを小さくすると2次関数的に計算時間が長くなりますので、比較したい環境変化が検知できる範囲で大きめの格子セルサイズを選んでおくのが良さそうです。

EED計算結果
EED計算結果

さて、置石撤去の影響ですが、上流側の置石撤去の影響は広い範囲でマイナスに出ているのに対し、下流側の置石一部撤去では本稿最初の図にあるように流速が高くなる領域ができたために下流側にプラスの影響が出た部分もあるようです。しかし区間全体でみるとわずかにEEDが0.02減少した程度で、あまり影響が無いようにも見えます。ただ、SKラボの現地調査では、20m程度の区間のEEDが0.1低下すると、その区間の生息魚種数が1程度減少しましたので、上図の中央付近に注目すれば、EEDは0.5近く減少し、この部分では生息魚種が大きく減ることが予想されます。つまり、影響評価する場合には、評価するスケールにも注意する必要がある、ということですね。区間全体のEED減少が0.02だからOKと考えるのか、置石撤去で魚種が5も減る区間があるからNGと考えるのかは、ケースバイケースだということです。なお、区間の一部についてEEDの平均値を計算するには、結果をエクスポートしてこのリンクの方法を応用すれば良いです。考えてみてください。

SKラボ
SKラボ

ケースバイケースではありますが、SKラボとしては、EEDが減少しないような事業を計画してほしい。そのためのEED/DHABSIMだと思っています。是非DHABSIMをうまく活用してほしいものです。

本稿は、まったく仮想的な事業の計算例なので、本当に魚種が減るかどうか証拠はありません。証拠のある事例についてはまた別の機会に。 Have fun!

一部の資料は国土交通省出雲河川事務所から提供を受けました。ここに記して謝意を表します。

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