iRIC/River2D:複雑な地形の再現(置石編)

アイキャッチ, iric-grid02 River2D

流況計算を生息場評価に利用する場合、局所的に複雑な地形を再現したくなることはよくあります。本稿では置石の再現事例を紹介します。

本稿の概要紹介YouTube動画(4分)を用意しています!

iRICはフリーの河川数値シミュレーションプラットフォームです。

計算対象区間の概要

下図上段が計算対象の約700m区間、下段はその標高です。右側が上流で、区間中央部右岸(上段図の上辺)の小さい赤い長方形の部分に置石が施されています。本来この程度の範囲の置石を論じるのであれば、赤色長方形の小さな区間だけ計算しても良いのですが、この事例では流量が変化した時に枝分かれした水路の流量が複雑に変化するため、区間全体の計算を行う必要がありました。

計算対象区間
計算対象区間

置石にあわせたDEMデータの調整

先の図の置石部分を拡大したのが下図です。人頭大かそれ以上のサイズの石が配置されています。図全体に赤から黄色の点が配置されていますが、これはドローンのDEMから作成した点群データです。点群データがこれくらいの密度で存在していれば、区間全体の流況シミュレーションに使用する地形データーとしてはむしろ必要以上で、立木や草などの、流況計算に不要な地形まで再現されてしまうので、そのまま使ってよいかどうか吟味が必要です。しかし一方では、置石の形状を再現するには不十分であることがわかります。下図では、置石の部分だけ点群データの配置が乱れているように見えますが、これは、置石の隙間の流路が地形にデータとして反映できるよう、iRICの地形編集機能を使って手作業で点を配置しなおしたからです。石の上部の中途半端に高い標高が設定された点などは除去してあります。

置石部分の拡大図
置石部分の拡大図

ポリゴンによる置石の地形データの作成

置石の形状を再現する方法は目的に応じていろいろあります。1つ1つの石の効果の違いを論じたいなら、この部分だけ詳細なドローン撮影を行って、より密度の高いDEMを作成するなども考えられるでしょう。ここでは、700mという大きな区間の中でざっくりとした置石の有無の影響を計算したいので、大まかに再現することにします。そのため、標高データとして置石の形のポリゴンを作成します。標高には、下図左下のPolygon Group Attribute Browserに表示されているように、すべての置石について6mの標高を与えました。

置石のポリゴンを作成する
置石のポリゴンを作成する

分割線を駆使して適切な格子を生成する

置石の地形データは、DEMデータであらわされた河床から垂直にポリゴンで作成した石の頂部までそそり立った形になっています。しかし2次元流況シミュレーションではそのような垂直な壁の状態を再現する三角要素を作成できないので計算もできません。このため、石の側面が傾斜を持った形になるように(地形用ではなく)格子用の分割線を作成します。下図のように、河床部と石の頂部のそれぞれに、ある程度隙間をあけて分割線を描きます。分割線自体も始点と終点の間にスペースを残しています。これは、分割線が間違っても重ならないようにするためです。スペースの大きさはこの付近で予想される三角要素の1辺程度になるようにしています。

河床と置石頭部に分割線を配置する
河床と置石頭部に分割線を配置する

格子

分割線を配置したら、格子を生成します。下図が生成された格子で、期待通り、石の頂部と河床の間には一列に三角要素が配置され、河床と石の頭頂をつなぐ斜面ができました。また石と石の隙間には最低2列以上三角要素が生成されていることを確認します。もし三角要素が足りなければ、石の間にも分割線を描くと良いでしょう。

置石周辺の格子生成状況
置石周辺の格子生成状況

ちなみに、下図上段は区間全体の分割線の配置、中段は生成された格子、下段は格子の標高です。置石から離れた場所では水際が凹凸になっている部分がいくつかありますが、注目箇所ではないのでそのままにしています。気になるなら分割線をうまく配置すれば簡単に修正できます。

区間全体の格子生成状況
区間全体の格子生成状況

計算結果

下図左は、平水時の計算結果の水深を彩色で、流速をベクトルで表示したものです。それっぽい結果になっています。下図右は、置石をいくつか除去して計算した結果です。格子はそのままで、地形データから置石ポリゴンだけを取り除いて再計算しました。流れが右岸(図上部)に集まり、左岸の置石が残っている側の流速が低下しているのがわかります。

計算結果
計算結果
すだくん
すだくん

他にも「障害物領域の追加」ツールや局所的な点群データの追加などで置石を表現できるよ。障害物領域の追加だと流量を増やしても絶対に水が置石を乗り越えない。点群データの追加なら石の頭頂の凸凹も表現できる。それぞれに特徴があるので目的に応じた方法を選んでね。

River2Dは、このような大きな区間でも局所的な地形改変を扱うことができるので、生息場評価に適しているんです。ただ、あまり格子の粗密の差が大きいと、大流量の計算が難しくなります。大流量の計算も考えているなら、細かい地形を再現する前に、目的の大流量でも計算できることを試しながら少しづつ地形を作り込んだ方が良いですよ。

今回はここまで。 Have fun!

一部の資料は国土交通省出雲河川事務所から提供を受けました。ここに記して謝意を表します。

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