前記事「いきものが棲むのはどんな場所?」の考えを川の魚にあてはめて、具体的な良い生息場の条件を考えます。魚だけでなく、水生昆虫などほかのいきものにもあてはまることが多いです。
水質はマクロ生息場の条件
かなえさん
そうた:もちろん水がきれいなところでしょう?
かなえ:空き缶とかゴミがないところじゃない?
授業などで魚が棲む場所を質問すると、ほとんどの人がこう答えます。まず、「水がきれい」について考えてみましょう。確かに、その昔の公害の時代、魚が大量に死んでしまうほど汚い川がたくさんありました。でも下水道が普及し、工場もたれ流しをやめた今は、水質と魚の間には、意外とはっきりした関係が見つからないんです。
いやそうは言っても、やっぱり農薬をまいた直後の川の魚はいつもよりヌメヌメだったりして、証明はできなくても何か関係はありそう、と思うことはあります。あくまでも、これから以下に書いていくように、もっと明確に関係がある条件がある、ということです。
水がきれい・きたないというと、公害の時代は有機物汚染(BOD)とか有害物質汚染(水銀とか)などの水質汚染が大問題でしたが、これらが比較的改善された今、むしろ水温とか濁りなどのシンプルな水質が川魚には強く影響しています。魚にとっての水温2度の変化は人間にとっての気温10度の変化と同じだとか、濁度25でアユは逃げ出すとか言われており、SKラボ自身も実際にそのような行動を観察しています。でも濁度数百の黄河でたくさん魚が捕れるように、濁度が高くても平気とか高温はむしろ好きという魚もおり、急激な変化は問題ですが水温や濁度の絶対値が常に悪というわけではありません。
ただこうしたシンプルな水質項目は、どちらかと言うと人間の力で簡単に変えることができないものであり、また比較的広い範囲で均一の値をとるものであって、前記事で言う「マクロ生息場」の条件として扱われることが多いのです。皆さんがこれから守ろうとしている目の前のこの川に、イワナが棲めるのか、アユが棲めるのか、コイが棲めるのか、その最低条件を満たしているのかな、ということを、水温や濁りといった水質で考える、ということですね。
というか、そもそも近くにいない魚を新たに生息させることは素人・個人には極めて難しいので、この魚は今はここにはいないけど、水質はあまり変わらない近くのあの場所には棲んでいるから、水質的にはここにも棲む可能性はあるよね、と考える、ということです。
あと、水に溶け込んでいる酸素の濃度を示すDOも大事な条件なのですが、素人・個人が簡単に測定できないことと、魚が生きられないほどのDOであれば周辺環境も良くないことが多く、雰囲気で異常に気づくだろうと思いますので、この段階では触れないでおきます。
空き缶のことはまた後で触れますね。
川魚にとってのマイクロ生息場の3条件は?
マイクロ生息場を整える、つまり水温や濁り的には棲めるはずの魚が、そこに集まってくるような環境をつくることは、水温や濁りなどのマクロ生息場そのものを整えることに比べれば人間が取り組みやすい課題です。ですから、世界的に、川魚の生息場改善と言えばマイクロ生息場の改善を指すことがほとんどです。SKラボ.netでは、主にアメリカで発展した物理生息場モデルの立場から説明します。
条件1:エネルギー的優位は主に流速と関係している
下の写真、なんという魚か知っていますか?左は、ザ・雑魚のカワムツです。右は、絶滅危惧IBのオヤニラミです。どちらもSKラボが同じ川の近い場所で撮影しました。皆さん、この2種の違いをいくつ挙げることができますか?
かなえさん
そうた:色も形も違うよね。大きさも違うな。
かなえ:写真の周りの景色も違うんじゃない
そうだね。周りの様子にも気づくなんて素晴らしい!カワムツは紡錘形で魚雷みたいだ。オヤニラミは体高が高くて薄っぺらいね。この形と周りの景色に関係があるんだ。カワムツがいる場所は、小さな落差の下の流れが速い場所、オヤニラミはその下流の小さな淀みにいたよ。
カワムツの形は、速い流れの中で機敏に動くことができます。オヤニラミの形は、速い流れの中では翻弄されてうまく泳げませんが、緩やかな流れの中では動きやすくなります。つまり、カワムツは速い流れの中で有利にエサをゲットでき、オヤニラミは緩やかな流れの中で有利にエサをゲットできるのです。ですから、エネルギーの観点からはカワムツは高流速で優位、オヤニラミは低流速で優位となります。
このように、エネルギー的優位は流速で説明できると考えることが多いのです。
条件2:再生産の成功は主に河床材料や水草と関係している
下の写真左側はアユ、コイの産卵場のイメージです。(残念ながら実際の産卵写真ではありません・・・)
アユは河床の礫を動かしてその間に産卵すると言われています。コイなどは水草に卵を産み付けます。アマゴなどサケ科の魚は水通しのよい礫床に産卵することが多いです。このように、再生産の成功は河床材料や水草で説明できると考えることが多いです。
条件3:生物的相互作用は水深や隠れ場と関係している
川魚の天敵って、なんでしょうか?そう、人間を除けば、最大の天敵は鳥です。SKラボは昔、川の中につっ立って魚の動きを観察したことがあります。えッ、つっ立っていたら魚は逃げちゃうんじゃない、と思うかもしれませんが、5分もじっとしていたら戻ってきます。ところが、その川面を鳥の影がサッとよぎっただけで、魚は蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまうんです。どこに隠れたかというと、深みや岸辺の草の下です。
このように、生物的相互作用は水深や隠れ場と関係していると考えることが多いです。
マイクロ生息場の結論
以上をまとめると、川魚にとってのマイクロ生息場の3条件は、
- 流速
- 水深
- 河道係数(河床材料や水草、川岸の植生などの河床の状態)
の物理3条件に置き換えることができる、というのが物理生息場モデルの考え方です。もちろん、いろいろな種類の魚がおり、流速がかならずエネルギー的優位につながらないことも当然ありますが、そうした対応関係は違っても、多くの場合、物理3条件が何らかの形で川魚の生息場の価値に影響していることが多いのです。また、水生昆虫などの生息場に対しても同じ物理3条件で議論されることが多くあります。
川魚がどこに棲むのかを決める秘密にだいぶ迫りましたね。あとは、具体的な個々の生物種について、これら物理3条件がどういう状態なら好適と言えるのかがわかれば、いろいろ環境に良いことができそうです。その話は次の機会に! Have fun!
え、終わりですか?結局空き缶の話はどうなったの?
ここまでの説明から考えてごらん。空き缶って、プルタブの穴が開いているよね。そこから小魚が中に入って、よい隠れ家になるんだよ。空き缶は魚に良い、と明言する先生もいます。でもSKラボは、景観が悪くなるから、むしろ人間のために良くないと思っています。ゴミがあると捨てる人が増える悪循環が始まるからね。みんなはどう思う?
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