高校生と一緒に「計算」で既存の水路にホタルが棲めるようにした!

アイキャッチ, hotaru Nature

PHABSIM系の物理生息場シミュレーションソフト、River2D(アルバータ大学版)を使って、高校生と一緒に既存の水路にゲンジボタルが棲めるようにした事例を紹介します。

すだくん
すだくん

ちょっと前にやったことなのでアルバータ大学版River2Dを使っているけど、今から計算するならiRICのRiver2DとEvaTRiPを使うかな。

対象水路の特長

対象とした水路は、どこにでもある雨水排除用のコンクリート三面張り水路です。でも、下の写真のように左岸は樹木のある斜面、右岸は樹木と湿地の平面でゲンジボタルの飛翔空間の条件を満たしていること、平水時の水源は湧水であり水温が低く保たれていること、そしてなにより、上流にはゲンジボタルが生息していることから、水路内の条件さえ整えればこの場所でもゲンジボタルが生息することは十分期待できました。

ゲンジホタル生息場創造の対象水路
ゲンジホタル生息場創造の対象水路
きやまさん
きやまさん

人間はいきものの生息条件を100%知っているわけではないので、対象のいきものがまったくいないところでその生き物を生息させるのは本当に難しいです。昔は生息していたとか、近くでは生息しているとか、そういった場所から始めて経験を積むのがいいですね。

ゲンジボタルとその餌であるカワニナのHSC

下図はゲンジボタルのHSCです。ゲンジボタルは研究者だけでなく市民愛好家も多く、生息条件についてのいろいろな情報が入手できます。それらをまとめて第一種適性基準を作成しました。

ゲンジボタルHSC(SKラボ作成)
ゲンジボタルHSC

下図は今回の事例で使用したカワニナのHSCです。カワニナはゲンジボタルの幼虫が7月から翌年3月まで水中で過ごす際の唯一の餌です。餌がないと生物は生きていけないので、ゲンジボタルを生息させたいならカワニナも生息させないといけないのですが、ゲンジボタルと比べると情報が非常に少ないです。このカワニナHSCはSKラボの調査に基づいて作成したもので、第三種適性基準ではありますが、調査範囲は近隣に限られているため、普遍性という意味では証明はされていません。

カワニナHSC(SKラボ作成)
カワニナHSC
SKラボ
SKラボ

特に、1点ピークを持つ水深のグラフはちょっと水深変化に対して敏感すぎかなと今は思います。近年は0か1かで生息可能範囲を示すHSCが好まれるので・・・。でも、使ってみたら良く合ったと調査会社の方に言われたこともあるので、ひどく間違ってはいないと思います。

水路の現状(手を加える前)の評価

手を加える前の水路のRiver2Dでの流況計算結果が下図です。平水時だけでなく増水時も計算したのは、コンクリート3面張り水路のような隠れ場所のない水路では平水時には生息できても増水時にはフラッシュされてしまうことが多いからです。

水路の改修前の水深、流速
水路の改修前の水深、流速

上記の流況に対する平水時の選好値の分布は以下のようになりました。ゲンジボタルに対しては水深はまずまず良いものの、流速が速すぎ、また底質も適していません。カワニナに対しては、流速と底質は適しているものの、水深は浅すぎます。

平水時のゲンジボタル・カワニナの選好値分布
平水時のゲンジボタル・カワニナの選好値分布

次に、増水時の選好値の分布は以下のようになりました。ゲンジボタルにとって水深はたいへん良いのですが、流速はさらに不適になりました。カワニナに対しては水深は改善するものの、流速が不適になります。底質については変化させていないので、水に浸かっている部分については平水時と同じ評価となります。

増水時のゲンジボタル・カワニナの選好値分布
増水時のゲンジボタル・カワニナの選好値分布
SKラボ
SKラボ

生物の選好値は、物理や化学の数値とは異なり精度・確度が高いものではありません。なので、絶対値で議論するのではなく、水路に手を加えた時に、良い方に変化したか悪い方に変化したかを見るようにします。ですから、まず現状の値を計算しておくことが重要なのです。

水路にどう手を加えたらよいか、計算して考える

手を加える前の計算から、まず川底がコンクリートのままではゲンジボタルに問題があることがわかります。次に、ゲンジボタルに対して平水時も増水時も流速が速すぎます。カワニナに対しては、平水時の水深が浅すぎ、増水時の流速が速すぎます。

以上より、まず川底に礫を敷くことが必要です。次に、平水時の流速を下げ、水深を上げるために、堰を入れることを考えます。ただ堰を入れて流速を下げるだけでは平水時に泥などが堆積する恐れがあるので、ある程度流速がある場所をつくるため、堰には左岸側に切れ込みを入れておくことにします。同じ堰を5か所に設置することにします。

下図は、計算された平水時、増水時の水深と流速の分布です。

堰を設置した水路の平水時、増水時の水深(上)・流速(下)
堰を設置した水路の平水時、増水時の水深(上)・流速(下)

下図は平水時の選好値分布です。礫を敷くことでカワニナの底質の選好値はやや低下したものの許容範囲となり、ホタルの底質の選好値は良好になっています。またホタルにとっての流速も切れ込みのない右岸側が好適な環境となりました。カワニナの水深の選好値も上昇しています。

堰を設置した水路の平水時のゲンジボタル・カワニナの選好値分布
堰を設置した水路の平水時のゲンジボタル・カワニナの選好値分布

下図は増水時の選好値分布です。堰のおかげで増水時にもホタルに対してもカワニナに対しても、生息可能な環境が部分的にせよ維持できるようになりました。

堰を設置した水路の増水時のゲンジボタル・カワニナの選好値分布
堰を設置した水路の増水時のゲンジボタル・カワニナの選好値分布
かなえさん
かなえさん

実際には切れ込みのない堰や、礫を撒いただけなどの条件でも計算してみて、この切れ込みのある堰が一番いいことを確かめたのよ。

実際に水路に手を加えてみた

すべてSKラボと高校生が人力で作業したので、長持ちしない合板の堰で、撒いた礫の数も十分とは言えない状態でしたが・・・。上流で採ってきたカワニナも少し入れました。すると・・・

水路に手を加える
水路に手を加える

翌年にはもうホタルが飛びました!増水時に上流から流されてきたものが定着できたのでしょう。新聞記事にもなりましたよ!

翌年にはゲンジボタルが飛んだ
翌年にはゲンジボタルが飛んだ

みなさんも何かできる気がしてきませんか? Have fun!

さかいさん
さかいさん

水路の管理者にはもちろん了解をとっていますよ。それに万一堰が壊れても流されてしまわないようにロープで岸に止めるなど、迷惑をかけない対策はしっかりとっています。

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