HydroSHEDSは水文流出解析用に加工ずみの全世界をカバーするDEMを中心とした無料GISデータです。基本となるDEMの解像度は2023年公開予定のHydroSHEDS v2で12m、既公開のHydroSHEDS v1で約90mと国土地理院が用意する基盤地図情報数値標高モデルの5~10mより劣るものの、世界中の水文流出解析にすぐに利用できる利便性はうまく使わないと損ですね。
HydroSHEDSデータの概要
DEM, 流向, 累積流量などのコア製品のほか、集水域、河道、湖岸線などの二次製品、下水処理場、河川分類、滝の位置などの関連製品があります。コア製品のデーターソースはHydroSHEDS v1が北緯60度以南ではSRTMデータ(解像度3秒角、赤道で約90m)、北緯60度以北ではHYDRO1k標高モデル(解像度1km)、HydroSHEDS v2がTanDEM-Xデータ(解像度12m)です。データの座標系はWGS84で、GeoTIFF形式で提供されます。
HydroSHEDS v1コア製品のダウンロード
このリンクの下部に、各コア製品ダウンロード先へのボタンがあります。ボタンをクリックすると、その下部にさらに当該製品のダウンロードリンクがあらわれます。
下図はVoid-filled DEMボタンをクリックした状態です。世界の地域ごとにダウンロードできることがわかります。Resolution(解像度)は3s(三秒角。赤道で約90m)ですが、下にスクロールしていくと15s, 30sも用意されています。
DownloadをクリックするとZipファイルがダウンロードされ、解凍すると技術文書のpdfとGeoTIFFファイルが入っています。試みにAsiaをダウンロードし、QGISで表示したものが下図です。
HydroSHEDS v1の各コア製品の概要
Void-filled DEM
ファイル名は「地域名_dem_解像度.tif」。解像度は3s, 15s, 30s。データ欠損部分を補間した数値標高モデルです。下図は摩周湖周辺です。
Conditioned DEM
ファイル名は「地域名_con_解像度.tif」。また、より容量が小さい10度×10度のタイルも用意されています。ファイル名は「タイル南西角の緯度経度_con.tif」。解像度は3sのみ。開水面や河道の切り下げ、沿岸部の植生除去、地形のスムージング、窪地の埋め立て、障害物の除去などを行い、特に大きな河川でできるだけ正しい河川網が生成できるよう調整した数値標高モデルです。詳しい調整内容は技術文書の3.4節を参照してください。
前節のVoid-filled DEMと比べると、湖がやや深く、中央に白い点ができています。この部分はNoDataとなっており、流出河川がない摩周湖の内陸シンク(この点に向かって水が流れる)となっています。また摩周湖東南(右下)の摩周岳火口が埋め立てられています。全体が少しスムーズになっていることも見て取れます。
このデータはHydroSHEDSで一番貴重だね。生のDEMを使ってGISでこれだけの調整をするのは本当に大変だよ。それも世界全体だよ!
Flow Direction
ファイル名は「地域名_dir_解像度.tif」。解像度は3s, 15s, 30s。8方向の流向を整数値で表したデータです。E: 1, SE: 2, S: 4, SW: 8, W: 16, NW: 32, N: 64, NE: 128です。内陸のシンク(河川流出のない盆地の底)の値は0になっています。
Flow Accumulation
ファイル名は「地域名_acc_解像度.tif」(現在セルとその上流のセル数)または「地域名_aca_解像度.tif」(現在セルとその上流の面積)。解像度はaccは3s, 15s, 30s、acaは15sのみ。
下図では摩周湖の内陸シンクに向かって白い線がつながっています。値が大きいほど白く見える設定になっていますので、水が集まる河川が白く表示されることになります。摩周湖の内部に河川があるわけではありませんが、流出解析の際に摩周湖に降った雨が摩周湖から海に流れ出さないよう内陸シンクに向かって仮想的な河川が生成されているわけです。
Flow Length
ファイル名は「地域名_lup_解像度.tif」(上流方向の距離)または「地域名_ldn_解像度.tif」(下流方向の距離)。解像度は15sのみ。最下流は海または内陸のシンクで、10メートル単位に四捨五入されています。
Land Mask
ファイル名は「地域名_bas_解像度.tif」。解像度は3s, 15s, 30s。データ値=1は陸地、2は海シンク、3は内陸シンクを示します。
下図は摩周湖周辺のLand Maskを地理院地図を背景に半透明表示したものです。紺色の楕円は目印のために後で書き込んだものですが、楕円の中心の赤い点が内陸シンクです。摩周湖全体は陸地扱いになっていますね。
下図は宇部港周辺のLand Maskです。海岸線が海シンクになっています。
HydroSHEDSのその他の製品の概要
HydroSHEDS製品ページのアイキャッチ画像の下部に、各製品へのリンクがあります。
ここでは、流出解析でよく使うと思われるHydroBASINS(流域ポリゴン)、HydroRIVERS(河川流路ライン)を簡単に紹介します。
HydroBASINS
HydroSHEDS製品ページのHydroBASINSリンクをクリックするとHydroBASINSページが開きます。ページ下部に地域ごとのダウンロードリンクがあります。標準タイプと湖つきのカスタマイズタイプがあります。Zipファイル内に技術文書とズームレベル1~12のポリゴンシェープファイルが格納されています。標準タイプのシェープファイル名は「hybas_地域名_ズームレベル_版.shp」です。ズームレベルが大きいと、より細かな支川まで流域分割されています。
HydroRIVERS
HydroSHEDS製品ページのHydroRIVERSリンクをクリックするとHydroRIVERSページが開きます。ページ下部に地域ごとのダウンロードリンクがあり、シェープファイル型式とGeodatabase形式が選択できます。ファイル名は「HydroRIVERS_版_地域名.拡張子」で、シェープファイル型式の拡張子はshp、Geodatabase形式の拡張子は.gdbです。
HydroBASINS, HydroRIVERSをQGISで表示した例
屈斜路湖、摩周湖周辺をHydroBASINS, HydroRIVERSで表示してみました。HydroBASINSは半透明表示にしているので、背景に地理院地図が見えています。摩周湖には流出河川がないので河川は湖中心に向かっていますが、屈斜路湖は流出河川があるので南東方向に水路が伸びていますね。
でもよく見ると、やっぱり実際の川とは少し違う所を流れていたりするよ?このデータを作成する元になっているConditioned DEMはすごく調整してあるんじゃないの?
世界全体を見て目立つ河川が大きく間違っていないようにしているのよ。それだけでも大したものだわ。これだけのデータがあれば、流域界を求める記事で紹介した作業はほとんどいらなくなるわね。任意の点から上流の流域界を求めるときにも、窪地を埋めたDEMとしてConditioned DEMを使い、ストラー数ラスタの代わりにFlow Accumulationを使えばワンステップで答えにたどり着けるわよ。それが無料なのよ!
解像度は国土地理院が用意する基盤地図情報数値標高モデルの5~10mやその他の高解像度衛星によるDEMより劣るものの、世界中の水文流出解析にすぐに利用できる利便性は貴重です。うまく使わないと損ですね。 Have fun!
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