iRIC/Nays2DH:スタンダードモードで河床変動させてみよう

Nays2DH

Nays2DHは河床変動を計算できるのが特徴です。スタンダードモードだけでできるすべての河床変動計算を実例つきで解説します。設定してもスタンダードモードでは無効なパラメータもありますので、時間を無駄にしないようしっかり読んでください。

数値実験のベースとなる単純な河床をつくる

Nays2DHをソルバーとしてiRICを起動し、勾配0.1%(河床高が100m下流で0.1m下がる)、幅10m×長さ100mの単純な河床をつくります。

地形高の作成しインポートする

まず、地形を表すbase.tpoファイルとして次の内容のテキストファイルを用意します。

-1.000 -1.000 0.101
101.000 -1.000 -0.001
101.000 11.000 -0.001
-1.000 11.000 0.101

(0,0)-(100,10) の範囲を河床として、それより前後左右に1m広い範囲の四隅に点を置き、勾配が0.1%になるように高さを設定しています。

プリプロセッサのオブジェクトブラウザで「地理情報」-「地形高(m)」を右クリックし、「インポート」ー「点群データ」でbase.tpoをNays2DHをソルバーとして起動したiRICに読み込みます。

base.tpoをインポートする
base.tpoをインポートする

base.tpoには4点の座標が記録されているだけですから、インポートすると下図右上のように4点表示されるだけです。読み込んだ「点群データ1」を右ボタンクリックし、表示方法を「補間された面」にしましょう。下図右下のように、左側が高くなった河床ができていることがわかります。

河床を補間された面で表示する
河床を補間された面で表示する
かなえさん
かなえさん

上図右下の河床高の色分けなんだけど、凡例のカラーバーと見比べると中間の高さを表す水色~緑色~黄色が抜け落ちているよ。おかしくない?

すだくん
すだくん

よく気づいたね。iRICでは地形高の2点の間の色分けはそれぞれの点の色のグラデーション表示になる仕様なんだ。このデータでは地形高の点が四隅にしかないから上図のように緑色などがなくなってしまうんだね。

格子を生成する

オブジェクトブラウザの「格子生成条件」を右クリックし、「格子生成アルゴリズムの選択」を選びます。この例では単純な「矩形領域の格子を作成」を選び、作成した河床の内側にポリゴンをマウスで描きます。次のステップで正確に形を整えるので、ここでは大体で大丈夫です。

「矩形領域の格子を作成」を選び、マウスでポリゴンを描く
「矩形領域の格子を作成」を選び、マウスでポリゴンを描く

次に、「格子生成条件」を右クリックし、「格子生成」を選びます。すると「格子生成」ダイアログが表示され、右側に矩形領域の座標Xmin, Ymin, Xmax, Ymaxが表示されていますが、フリーハンドで描いたので切りの悪い数字になっていると思います。下図のように修正しましょう。格子間隔は2mにしておきます。「OK」をクリックします。地理情報を格子属性にマッピングするか聞かれますが、まだ地理情報が完成していないのでNoでも構いません。下図ではYesにしています。

格子を生成する
格子を生成する

固定床・移動床の設定

スタンダードモードでは、移動床として設定した範囲が初期の地形高より下まで洗堀される可能性があります。一方固定床として設定した範囲は初期の地形高より低くなることはありませんが、砂が堆積することで初期の地形高より高くなることはあります。ここでは、水路全体を移動床として設定します。

オブジェクトブラウザで「固定床と移動床」を右クリックし、「追加」ー「ポリゴンデータ」で水路全体を囲んで移動床に設定します。

移動床の設定
移動床の設定
すだくん
すだくん

オブジェクトブラウザの「地理情報」には「固定床高さ(m)」とか「河床材料粒度分布」とか、移動床や固定床に関係ありそうな項目があるけど、これらはスタンダードモードでは使えないよ!アドバンスモード用なんだ

マニングの粗度係数の設定

粗度係数は川底の砂礫の大きさ(河床材料粒径)で決まります。本計算では河床材料粒径を0.55mm均一として計算しますので、マニングの粗度係数と粗度高さの換算式を使って得た0.0127を設定します。

マニングの粗度係数の設定
マニングの粗度係数の設定

単純な河床の完成!

以上でいろいろ実験するためのベースになる水路が完成しました。オブジェクトブラウザで作成した地形高や移動床、粗度係数などはわかりやすく名前をつけてあります。

一定勾配の単純な水路の完成
一定勾配の単純な水路の完成

数値実験のベースとなる計算条件の設定

ソルバー・タイプの選択

メニューの計算条件を設定していきます。「ソルバータイプの選択」は「スタンダード」、「河床変動計算」は「有効」、「移流項の差分方法」はデフォルトの「CIP法」にします。

ソルバー・タイプの設定
ソルバー・タイプの設定

境界条件

境界条件は、まず「周期境界条件」を「有効」にします。これは、この水路の上流・下流に同じ水路がつながっているという条件です。「下流端水位」は「等流計算」で自動的に求めます。「等流計算に用いる河床勾配」は「河床データから自動計算」することにします。上流端の条件は「周期境界条件」が「有効」の時は設定できません。下流端の計算結果が上流端の流入になるのだから当然ですね。さらに、最も重要な「上流端流量と下流端水位の時間変化」を下図のように0~5000秒まで10m3/sの一定流量が流れるように設定します。流量設定の右側には水位を設定するカラムも隠れているのですが、既に設定したように水位は等流計算で求められますので入力する必要はありません。

境界条件の設定
境界条件の設定
そうたくん
そうたくん

上流から砂は入ってこないのかな?

かわのさん
かわのさん

周期境界条件が有効なら下流から流出した分が上流から入ってくるわ。周期境界条件が無効なら、上流の流速が流すことのできる砂(平衡流砂量)が入ってくるのよ。ここでは説明しないけど、アドバンスモードならいろいろ調節できるわよ。勉強してみてね。

時間・初期水面形

時間の条件は以下のようにしておきます。「計算タイムステップ」だけデフォルトより小さな値にしてみました。実際には計算結果が変化しない程度に大きな値を試行錯誤で求めれば良いです。

初期水面形は等流計算で求めることにします。

時間・初期水面形の設定
時間・初期水面形の設定

河床材料・植生

河床材料は0.55mm、植生の「樹木の抵抗係数」はデフォルトの0.7、「植生高さデータの使用」は「無効」にしておきます。

河床材料・植生の設定
河床材料・植生の設定

基本的な流れの計算

これまでの基本的な計算条件を使って計算してみます。ツールバーの実行ボタンをクリックすると、(格子点属性のマッピングやプロジェクトの保存が促されたあと)実行がスタートし、ソルバーコンソールに経過が表示されます。表示されている数字は、左から経過時間、流量、下流端水位、右端はoutのとき結果が出力されていることを示しています。右から2つ目の1とか2の数字については、マニュアルを調べた限りでは説明されていませんでした。

ソルバーコンソール
ソルバーコンソール

計算結果は以下のようになりました。河床変動はゼロ、流速は1.73m/s均一、水深は0.58m均一です。このような水路が連続して平衡に達した状態を計算しているので、変化がないのは当然ですね。

基本条件の計算結果
基本条件の計算結果

障害物を設置した計算

オブジェクトブラウザの「障害物セル」で右クリックし、「追加」ー「ポリゴンデータ」で障害物セルを設定します。障害物セルは、橋脚のように水が流れない領域です。

障害物セルの設定
障害物セルの設定
すだくん
すだくん

セルというのは、格子点で囲まれた四角形の部分だよ。作成したポリゴンで中心が覆われたセルが障害物として設定されるんだ。ポリゴンの形そのものではないことに注意してね!設定されたセルを確認したければ、オブジェクトブラウザの「格子」ー「セルの属性」ー「障害物セル」にチェックを入れると確認できるよ。

計算結果は下図のようになりました。まず、障害物セルの表面に沿った流れは計算されることがわかります。障害物上流端近傍には砂が溜まり、左岸(上側)は洗堀されて低くなりました。障害物の上流や下流は流れが乱れ、中央寄りに堆積が生じています。

障害物を設置した計算結果
障害物を設置した計算結果

障害物と固定床を設置した計算

前節で設置した障害物を囲む範囲全体を固定床にしてみました。堆砂や洗堀を起していた場所がどうなるのか楽しみです。

固定床の設置
固定床の設置

計算結果は下図のようになりました。中段は前節と同じ色分けですが、違いが微妙なので下段では凡例のカラーバーの範囲を狭くしてあります。予想通り、固定床に設定した部分は洗堀されていませんが、堆砂は発生しています。自然な動作ですね。

障害物と固定床を設置した計算結果
障害物と固定床を設置した計算結果

植生を設置した計算

障害物と固定床を削除し、植生密生度0.05を障害物があった場所に設定しました。「植生高さデータの使用」は「無効」にしています。この場合、植生は水面から空中に頭を出した状態になります。

植生密生度の値は単位堆積に占める植生の遮断面積Asです。詳しくは、Nays2DHソルバーマニュアルのp.11やその原論文を参照してください。As=0.05は20cmの幹を持つ樹木が10m×10mの範囲に25本生えていると想定して計算しました。

計算結果は以下のようになりました。植生内部にも水は流れていますが、植生のない左岸の流速がやや速く、植生部左岸で洗堀が、その上下で堆砂が発生しています。

植生を設置した計算結果
植生を設置した計算結果
すだくん
すだくん

「植生」というと、ヨシやガマなどの草本を思い浮かべる人も多いと思うけど、草本は洪水の時には倒れてしまうので「植生」とは扱わず、「粗度」として扱うことも多いよ。どのぐらいの流れを計算するのかよく考えてね。

植生を設置し、植生高さを設定した計算

前節と同じ植生密生度に加えて、植生高さ0.5mを設定してみました。杭とか切り株のイメージです。水深は2m近くありますから、植生は全部水中に没した状態です。

計算結果は下図のようになりました。植生の影響は期待通り、前節よりマイルドになっていますね。

植生を設置し、植生高さを設定した計算結果
植生を設置し、植生高さを設定した計算結果

以上がNays2DHのスタンダードモードでできる河床変動計算です。意外に簡単でしょう? Have fun!

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